第6章 【パンチヒーロー】前編
先程まで私に覆い被さっていた
彼氏……だった男は、白目を向いて
気を失っているようだった。
両方の鼻から血を流して
しかも、下半身のそれは
だらしなく晒されている。
ヒトの擬態を解いた鬼灯様は、
男の脇で呆然とする私の
傍らに膝をついて、
開いてしまっていた脚を
そっと元通りにしてくれた。
ふわり
直後に香ったのは、上品な
きざみ煙草の微かな香り。
ああ……私、この匂いを知ってる。
「鬼灯様……?」
きつく私を抱き留める
鬼灯様の腕が、わずかに
震えている気がした。
「………すみません。
一足、……遅かった」
「そ、んな……私……、
でも……どうしてここが」
鬼灯様の腕の中で
問うと、彼の腕が
ふとその力を失って
「私を誰だと思ってるんですか」
小首をかしげる仕草。
懐かしい、彼の癖。
「生者の気を辿るくらい
なんてことありません。
それに、あなた私を
呼んだでしょう?」
「呼んだ……?」
「おや、自覚なしですか」