第5章 【彼女が見た夢】
部屋の明かりを点けることも
忘れて、ひとり膝を抱える夜。
ヒトに化けた鬼灯と
ハンバーグを食べたのが
随分と昔に感じる。
たった数時間前のことなのに
まるで現実味がなかった。
「鬼灯様、か……」
彼はイイヒト、だと思う。
ちょっと(すごく)
顔は怖いけれど、
気さくで根は優しい。
前世の記憶で知る彼は
勿論のこと、薺としても
充分に感じたことだ。
『鬼灯様といるの楽しいし』
この言葉に嘘はない。
しかし、このまま鬼灯や、
ましてや白澤と仲良しこよしを
する訳にもいかないのだろう。
薺の脳裏に漫然として
あるのは成仏の二文字。
それは、前世の自分を
完全に消滅させること。
「私……どうしたらいいの」
鬼灯の前で取り繕っていた笑顔。
精一杯の強がりは、
密度の濃い夜に
ひっそりと溶けて消えた。
【五ノ章】
彼女が見た夢___終