第5章 【彼女が見た夢】
薺は、高級ホテルの一室で
淫らに交わりを持つ
鬼灯と紗英を見下ろしていた。
心に直接流れ込んでくるのは
鬼灯の叶わぬ恋情だろうか。
痛い。ただ漠然とそう思う。
あられもない姿で喘ぐ紗英を
狂おしいほどに愛した女性を
その腕に抱く鬼灯が、ひどく
悲しそうな目をしているから。
「ああ、ん……っ」
部屋を満たす女の濡れた声は、
薺の耳には届かない。
理解出来なかった。
叶わないと分かっているのに、
なぜ鬼灯様はその人を抱くの?
叶わない恋をしているのに、
なぜ彼女は彼を利用するの?
夢を見ていた。
二人の男に代わる代わる
抱かれる、おかしな夢を。
これが夢の真相。私の前世。
薺の夢はそこで途絶え、
加々知の運転する車の中で
目が覚めるのであった。