第1章 とある桜の木の下で
誰にでも同じ笑顔を向ける、木に咲き誇る桜のような香奈さんと、
香奈さんを嫌いにならないように切なげに笑う、散る桜のような聖美。
手のひらを広げ、そっと前に出すと散る花弁が手に落ちた。
花弁をそっと握り、二人の後を追うように掲示板へと向かう。
「雅留おっそ!」
「うるせ。」
「名前見つけたら教えてよー?見つからない。」
「おー。」
いつものように煽ってくる聖美に返しつつも掲示板を見た。
「…あった。」
”南雅留 持田聖美”
並んだその名前を見つけて少し嬉しくなった俺のキモチ。
正直なところ言うと、自分の気持ちがわからない。
握った手をポケットに入れて
俺は思った。
「散る花弁も、俺は好きかもしれない」
不思議そうな顔をする聖美に、
俺はふっと微笑んだ。
ピンクに染まる頬。
俺の笑みに聖美は何を思ったのかわかるはずもない。
end