第2章 風邪の移し方【一角/N】
『あら、珍しい……』
「こんなん、薬飲めば……ゲホゲホ!治る……」
『ダメよ!隊長には話して置くから、一角はお休みして。今日は私も休むから』
冬の寒い時期。
厳しくなって来たと言っても、普段から躰を鍛えてる一角が風邪を引くのはとても珍しい。
というか二人が付き合ってからは初めてである。
『ふふっ』
「人が気分悪ぃつーのに……何笑って……ゲホゲホ!」
『だって一度はやって見たかったんだもの!怪我じゃなくお熱を看病するの!』
「楽しんでんのかッ!」
『もう、そんな言い方しないで頂戴な……ふふっ、いっぱい甘えてね?一角』
「何言ってやがる……ゲホっ」
そう言って悠鬼は、少しテンション高めに寝室を出て行く。
台所からは微かに鼻歌まで聞こえて来る程浮かれているらしい。
「何がそんなに嬉しいんだ?……怪我したら叱るくせにッ」
彼女の態度に不服そうに顔を顰める一角だが、甘えてという悠鬼の言葉には満更でもなさそうな顔を見せる。
暫くして部屋に良い匂いが漂って来ると、うっすらと瞼を開いて目を覚ました一角。
頭上に置かれている目覚ましを見ると、時間は十二時近くになろうとしていた。
そして廊下からは寝室に近付く足音が聞こえ、悠鬼がお盆を持って入って来る。
『あら、起きてたの?お粥食べてお薬飲んで頂戴な』
「あ゛ー……少し腹減った」
『食欲があるなら早く治りそうね』
悠鬼は一角の傍に腰を下ろすと、彼の背中に手を添えながら起き上がらせる。
お粥を土鍋からお椀に移すと、レンゲに掬って息を吹き掛けて冷ました後、そっと一角の口元に近付ける。
『はい、あ~ん!』
「……」
『どうしたの?ほら!』
一角は差し出したお粥を凝視しているだけで、一向に口を開けようとはしない。
理由が分からない悠鬼は、レンゲを差し出したまま不思議そうに首を傾げる。
「餓鬼じゃねぇんだから、んな恥ずかしい事出来るかッ」
『一度はやって見たかったのに……好きな人を看病するの』
「十分してんじゃねぇかッ……」
『一回だけで良いから……ダメかしら?』
「……チッ……勝手にしろよ」
嫌そうに眉を顰める一角を見て、一気に暗い表情を見せる悠鬼。
普段聞き分けの良い彼女が、何故か今回は引かずに上目遣いで頼んで来る。