第33章 たった一人の想い人【半田/N】
半田 清、高校二年生。
書道の大家半田清明を父に持ち、書の世界では名の知れた若き天才。
彼が歩けば自然に道が開け、生徒達は口々に彼の噂話しをする。
その人を寄せ付けなぬクールな佇まいから孤高の男と呼ばれ、人々は遠くから羨望の視線を送っていた。
……事を本人は嫌われてると思っている。
(今日も安定して嫌われているな、安心しろ俺はお前等と友達になりたいなんて思ってないからな。思ってないんだから……)
『まぁ、清くんまた一人で……』
「待った、悠鬼ちゃん」
『川藤くんでも清くんが……』
「俺にも避けるんだぞ?理由があるんだって」
『聞いても教えてくれないのよ……私にも近付かない様に言われてて……でも清くん、いつも一人じゃない?』
「何度言っても聞く耳持たないんだよ」
『どうしたら良いかしら』
幼馴染みで近所に住んでいる彩條 悠鬼は、川藤と同じく半田の友人に位置する。
休日は半田の父に書道を習って居り、半田には負けるが今時の女子から見ればとても美しい字を書き、その上物腰も柔らかく言葉遣いも丁寧(半田母に憧れている)なのでそれなりにモテるが、半田同様それには気付いていない。
しかし、友人は普通にいる。
川藤は中学時代に半田にした事を、未だに悠鬼に話せていないのだ。
同じクラスで前の方に座る悠鬼は、時々後ろをチラっと見て半田の様子を心配そうに見るが、目が合ってもあから様に顔を背けてしまう。
休み時間になっても、一人でずっと机に向かって筆で字を書いているだけ。
(どうしたら良いかしら?)
半田が壁を作って人を寄せ付けない様にしているのをどうにかしてあげたいし、何より自分が半田と楽しい学校生活を送れないのが心苦しいと思っている。
『まぁ……』
あの日のHR中に学級委員長を決める事になり、黒板には相沢と半田の名前が書かれてしまった。
後ろを振り返ると半田は不味いと言う顔をしているが、それには誰も気付かずに半田を応援してしまっている。
(私は相沢くんに入れましょう)
半田が目立つ事をしたがらないのは解っているので、悠鬼は半田が委員長にならずに済む様にと相沢に投票したが、半田と悠鬼の願いは叶わず同数になってしまった。