第31章 肝試し【芦屋/N】
『……良かった』
「えっ……何が?」
『一緒に居たいって思ってるの私だけかと思ってたから……』
「そんな訳ないじゃん!……俺だって悠鬼ちゃんと一緒に居たいよ」
『見えてないから花繪ちゃんのバイトをちゃんと理解してあげられないけど……私はどんな花繪ちゃんも大好きよ!』
「……っ……悠鬼ちゃん」
『怪我しない様に頑張って?』
妖怪が見れない人には理解されず、気味悪く思って離れて行く人の方が多いだろう。
それでも一緒に居たいと、好きだと言ってくれる人が存在するなんて思っても居なかった。
付き合ったばかりで、まだ恥ずかしくてぎこちないけど、俺はそんな彼女にキスをせずには居られなかった。
『んっ……花繪ちゃん』
「悠鬼ちゃん、俺も好きです!……えっと、だから……これからもよろしくお願いします!」
『ふふっ、はい!よろしくお願いします!……バイトも大変だろうけど、たまには構ってね?』
「勿論だよ!……ちゃんと悠鬼ちゃんとの時間も作るからッ……」
ー次の日ー
「お前、彼女の事「ちゃん」付けで呼んでんのな?禅子の事は呼び捨てなのに……」
「悠鬼ちゃんと禅子は違うじゃないですか!?……呼び捨て出来なくてッ……」
「言わないだけで気にしてんじゃねぇの?」
「うっ……やっぱり、そう思います?」
後ろの席に座っている安倍に指摘されて、芦屋も昨日初めて悠鬼と禅子を会わせたので気にしているのではないかと察してはいたが、彼女と顔を合わせると緊張して呼べないでいる。
安倍は離れたところで友達と談笑している悠鬼を指差し……
「今からでも練習して来いよ」
「今から!?……む、無理ですって!!」
「早く行け」
「はい!」
安倍は彼女のいる芦屋に八つ当たりしているだけだが、芦屋は睨まれて慌てて悠鬼に近付いて行く。
「ゆ、悠鬼ちゃん……」
『花繪ちゃん!……何?』
「……っ……」
『ん?』
「やっぱり無理~!!」
声を掛けて真っ直ぐ自分を見て来る彼女を目の前にすると、口をぱくぱくさせてやはり言えずしゃがんで項垂れる。