第31章 肝試し【芦屋/N】
『えぇー!花繪ちゃん、今日も一緒に帰れないの?』
「う、うん……ごめんね?」
『高校入ってから殆んど一緒に帰れてないのに……部活入ったの?それともバイト?』
「え、えっと……それは……」
(……自分でどうにかしろ)
同じ中学だった悠鬼と芦屋は高校から付き合い出したが、芦屋が入学当初から保健室通いをしていたのと、モノノケ庵の奉公人をし始めたのとで、二人は殆んど一緒に帰れずに居る。
一緒に帰れない理由を今までは問い詰められなかったが、何度も続いているので悠鬼も不満に思ったのだろう。
ハッキリ本当の事は言ったらマズいと思っている芦屋は、助けを求めて後ろの席にいる安倍にチラッと視線を向けるが、安倍のは助け船を出す気はなく目力で訴えて来る。
「そ、そうなんだよ!バイトを始めて……」
『バイト!?……何処でバイトしてるの?花繪ちゃんのバイト姿見たい!』
「えぇー!?」
『一回で良いから教えて?』
「……っ……い、イヤ……それはッ……」
『教えて?』と首を傾げた彼女に可愛いと思ってしまう芦屋だが、まさか見せる様に言われるとは思わなかったので、芦屋は驚いて冷や汗を掻きながら焦る。
その光景を頬杖を付きながら後ろから傍観していた安倍は、呆れて深い溜め息を吐きながら仕方なく助けてやる事にした。
「今日、芦屋は先生に何か頼まれてただろ?遅くなるんじゃねぇの?」
『それだったら私が手伝うよ!そしたら少しは早く帰れるでしょ?……早く帰れたら何処か寄って行こうよ!』
「……」
「……悠鬼ちゃん」
手伝うと言ってくれる優しくて好きな彼女に隠し事をしている自分に心苦しくなった芦屋だが、やはり言う訳にはいかないとも思っているので再び頭を悩ませる。
「芦屋、言って良い」
「!?……でも!」
「別れる気がないなら、いつかはバレる事だろ。早いか遅いかだけだ」
『……別れる?』
「い、いや!別れないよ!……悠鬼ちゃん、その……今から俺が話す事、信じられないかもしれないけど、ちゃんと話すから……」
『うん!』
勿論、別れる気は一切無いがマンジロウの一件があった時、安倍は見えない人間に妖怪の事を話すのをずっと渋って居た。
安倍の意外な許しに目を見開いて驚くが、相手の言い分に納得して芦屋は悠鬼に話す事にする。