第30章 魔王な彼【有利/N】
今度は悠鬼が有利を襲っていると、廊下から有利を呼ぶヴォルフラムの怒鳴り声が聞こえて来て二人は盛大にビクゥっと驚いてしまう。
悠鬼がどうしようと眉を八の字に曲げて戸惑った様に有利を見上げると、彼は自分の口に人差し指を立てて静かにと居留守を使おうとしている。
コクンと頷いて理解した悠鬼は、互いに抱き締め合って物音を立てずにヴォルフラムが去るのをただ待つ。
「マジ……ムード台無し……」
『ふふっ、有利を独り占めぇ~』
「……っ……うん、俺は悠鬼のだよ」
『……有利』
「悠鬼は俺の。それを俺はずっと変えるつもりはないよ……直ぐには無理だと思うけど、俺はヴォルフラムとの婚約を破棄して悠鬼と婚約したいと思ってる」
『私も有利が良い』
「うん、だからもう少し待ってて?」
『有利大好き』
「俺も」
「ヴォルフラム、何を騒いでいるんだ?」
『「……」』
ヴォルフラムの登場で雰囲気を台無しにされると、不機嫌になってしまった有利だが、悠鬼に独り占め等と擦り寄られると悪い気はせず、寧ろきゅんと胸が高鳴ってしまう。
悠鬼が自分との結婚を本気で望んでくれている事を知った有利は、キスをしようと顔を寄せるが今度はコンラッドの声が部屋の外から聞こえ、唇が触れる前にピタッと動きを止めて耳を澄ませる。
「コンラート!ユーリは何処だ!?」
「さぁ、何処だろうね」
「なっ!?知ってて教えないのか!!」
「俺はユーリの味方だ。ユーリがあの子に本気なら俺は反対する理由もないし、邪魔をする気もないよ」
「理由ならあるだろうがっ!ユーリは魔族であの女は人間なんだぞ!」
「ユーリがそんな差別をすると思ってるのか?……あの子と居る時のユーリの顔、ちゃんと見たか?」
「……ッ……僕は認める気はない!絶対、婚約破棄なんかしないからな!」
「全く」
『「……」』
至近距離で見つめ合ったまま、悠鬼と有利は外から聞こえる大きな話し声をしっかり聞き続けて居た。
二人が去って行く足音を聞きながらコンラッドが味方で居てくれている事は心強いが、ヴォルフラムを説得するのは至難の業だと有利は溜息を吐いてしまう。
悠鬼とキスを交わすと、有利は再び彼女をそっと寝かせて上から見下ろす。