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淡い恋心

第30章 魔王な彼【有利/N】



『有利!今日こそプールに行こうよ!』

「だ、ダメなんだって!」

『何でぇ?じゃあ海でも良いからぁ!』

「だから海もプールもダメなの!」

学校が夏休みになって恋人である有利の自宅を訪れた悠鬼は、彼の腕に抱き付いてデートに誘っている。
せっかくの夏休みなので彼とプールや海に行きたいと思っているのに、何度誘っても有利は首を縦に振ってくれない。

ぷぅーっと膨れっ面をしている彼女を見て、有利は目を逸らしてどうしようかと頭を悩ませる。
有利自身もやっと彼女が出来たのだから、海等に行きたいし悠鬼の水着姿も見たい!!
しかし、自分が異世界の王だという事を未だに話していない有利は、水辺に近付きたくないのだ。

(悠鬼とヴォルフラムを会わせる訳にいかないよなぁ……)

「おい!有ちゃんにベタベタ触るな!」

『勝利さん……あっ……やだ!放して下さいよ!』

「行きたいなら一人で行けば良いだろ!有ちゃんを誘惑するな!」

『彼氏を誘惑して何が悪いんですか!?』

悠鬼が可愛い弟に抱き付いているのを見掛けた勝利は、有利の反対側の腕を掴んで二人を引き離そうとする。
二人の奪い合いに巻き込まれている有利は、左右にグイグイ引っ張られながら呆れた深い溜息を吐く。

(勝利ともこれだもん、アイツともこうなりそう……)

悠鬼と有利が付き合い出した頃から顔を合わせると、毎回喧嘩をし始める二人。
彼女をあっちの世界に連れて行ったら、この状況をまた経験する事を安易に予想出来てしまう有利だが、いつまでもこのままは自分がキツい。

(仕方がないか)と諦めた有利は勝利の手をバッと振り払うと、悠鬼の手を掴んで立ち上がる。

「良いよ!行こうか?」

『えっ』

「行きたいんだろ?どっちに行く?」

『良いの!?』

「なっ!?有利!!」

「せっかくの夏休みに海にもプールにも行かないのはつまらないよな!用意して来るから玄関で待ってて?」

『……っ……うん!有利、大好き!!』

「う、うん!……俺もだよッ」

満面の笑みで嬉しそうな彼女を見ると、ヴォルフラムの事もあるが彼女との時間も正直欲しいと思った有利は、悔しそうな兄を放って置いて自室に向かう。
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