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淡い恋心

第28章 訪問者【半田先生/N】



『ふふっ、賑やかで楽しいところね?』

「鬱陶しいだけだろ、人の迷惑も考えないで」

『でも清くん、ここでの方がずっとイキイキしてたわよ。お散歩してても気持ち良かったし、素敵なところねぇ』

「そうだな……でも空港からここまで歩いて来るなんて……しかも下駄で。足痛くならなかったのか?」

『大丈夫よ、清くんに会えると思ったら何にも苦にならないもの』

子供達が漸く帰って行った後、半田は台所で皿洗いをしている悠鬼の背を見ながら戸に寄り掛かって話しをしている。
手伝おうとしたが断られてしまったのだ。


俺が島に行く事が決まった時も、悠鬼は寂しそうに少し涙目になって居たが、涙を堪えて我儘を一切言わなかった。
面倒な母さん相手にも怯まなかったし、正直俺より度胸もメンタルも強い。

「悠鬼……重荷じゃないからな」

『…っ…清くん、聞いてっ』

「邪魔だと思った事も一度もない……けど俺もまだまだ半人前でここに来ても自分の字が見つけられないし、今も郷の人達にたくさん助けられてるんだ……今の俺じゃ悠鬼を迎え入れられない」

『?……迎えてくれてるじゃない?』

「そうじゃなくて!いつかちゃんとケジメ付けるから、悠鬼とここで一緒に住める様にっ」

半田が顔を真っ赤にしてそう告げた瞬間、不意に細い腕に抱き締められたかと思うと悠鬼が胸に顔を埋めているのが見え、若干鼻を啜る音も聞こえて来るのが分かる。

『清くんのペースで良いから焦らないで……私はいつまでもずっと待ってるから。清くんが自信を持って迎えに来てくれる日を』

「自信をか……」

『ごめんなさい、プレッシャーだった?』

「父さんに追い付くのはまだまだ先だと思うし、待ち草臥れると思うけど」

『それも承知の上です。私だってえみさんに認めて貰う為に毎日頑張ってるんだから』

「あぁ、そうだな」

彼女と話している内に背中を押された感覚を覚えると、半田はそっと触れるだけの口付けを交わしながら悠鬼を抱き上げて寝室へと足を向ける。
ご無沙汰で少し緊張と戸惑いを見せる悠鬼だが彼の首に腕を回して、その日の夜は布団と互いの温もりの中で愛し合った。


Fin.
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