第28章 訪問者【半田先生/N】
『まぁ……本当に何もないのねぇ……清くん、本当にこんなところで生活出来てるのかしら』
東京から長い時間を掛けて小さな離島にやって来た悠鬼は、手に持っている紙を見ながら空港から目的地までの道を徒歩で歩いて行く。
都会暮らしの彼には大変な事が沢山あるだろうが、波や風の音を聞いて癒されてしまう悠鬼は、下駄の足音を鳴らしながら気持ち良さそうに歩を進めて行く。
「「先生ぇー!!」」
「何だ!?今は仕事中だぞ!静かにっ」
「着物を着た知らん人が来ちょるって!」
「着物を着た人?母さんか?」
「もっと若い人や言いよった!」
「!?……まさか……」
県外から人が来る事の少ないこの島は、見知らない人が訪れると一気に広まる。
川藤や両親が来た時も騒がれたので、美和達の知らせで半田は一人思い付くと持っていた筆を置いて慌てて家を飛び出して行く。
「先生の彼女っちか?」
「そ、そんな!?……私は許さないよっ……」
「!?」
『あの、半田清舟さんのお宅はどちらになりますか?』
「……そんな人はいません」
『まぁ……いつの間に引っ越しちゃったのかしら……』
暫く道を歩いていた悠鬼は、小さな女の子を見掛けて目線を合わせる様にしゃがんで詳しい道を聞くが、教えられていない情報を警戒している少女から聞かされて困った様に真に受ける。
「悠鬼!!」
『あら、清くん』
息を切らしながら走って来た半田に振り返った悠鬼は、振り向いて嬉しそうな笑みを見せるが少々残念にも思う。
「何で……はぁ……はぁ……何も言って来なかっただろ!」
『川藤くんにお話聞いてたら私も来たくなちゃって……清くんを驚かそうと思ってたのに……迷惑だったかしら?』
「いや、十分驚いたけど迷惑じゃない……ただ……」
焦ったものの彼女が会いに来てくれて正直嬉しいが、傍にいるなるを横目に見ると案の定興味深々の眼差しを向けて来る。
「この人先生の彼女かぁ!?」
「こいつ等にお前の事知られたくなかったッ……」
『先生……清くん先生って呼ばれてるの?まぁ!?』
「えっ……あっ……」
「美和ネェー!!」
「なるぅー!!アイツ等には話すな!!」