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淡い恋心

第27章 痛みからの誘惑【一角/N】



一角が縁側で横になって昼寝をしていると、静かな足音が微かに聞こえて来るのが分かる。
目を開けなくてもこの時間にここに来るのはたった一人しか居ないので、一角は特に気に留めずそのまま動かずに目を閉じて寝転がる。

『ふふっ』

何が楽しいのか分からないが、悠鬼はいつも縁側で寝ている一角を見ると綺麗に微笑む。
そして一角の傍に正座をすると、彼の頭をそっと持ち上げて膝枕をする。
それが二人の日課で、一番幸せを感じる瞬間である。

『あら』

「……あっ?何だよ」

『起こしちゃった?』

「……んっ」

悠鬼の『あら』と少し何かに驚いた様な声を聞いた一角は、薄く瞼を上げて横目で彼女を見ると起こされた事には何とも思っていないので、再び瞼を閉じて問い掛けに声だけで答える。
起こしてしまったなら仕方ないと一角の頭に触れると、優しく撫でるがいつもツルツル綺麗に剃られている頭がチクチクしている。

『髪の毛がちょっと生えてるわね』

「……まぁ、マジでハゲてるわけじゃねぇからな」

『ねぇ?たまには私が剃ってあげましょうか?』

「あ゛?……良いって、後で自分でやるから」

『たまには良いじゃない……ちょっと待ってて頂戴な』

「……ったく」

膝枕でこれから寝ようとしているのに再び立ち上がって去って行ってしまった悠鬼を見ると、一角は呆れた様に自分の腕に頭を乗せる。
悠鬼とここで甘い雰囲気になるのは嫌いじゃなく、寧ろ一角自身もそうなりたいと思うが、髪を剃るという行為は寝られなさそうだと思う。



『はい、お待たせしました』

「待ってねぇし」

『一角は寝てて良いからじっとしてて』

戻って来た悠鬼の手にはカミソリと手ぬぐい、それといつも一角が使っている泡状のクリームが握られている。
彼女によって再び膝枕をされた一角は、器用な相手なら良いかと諦めて身を任せる事にした。

悠鬼は自分の手にクリームを乗せると、後ろから見て左半分に塗って行く。
頭を切らない様にと気を遣いながら、そっと丁寧に剃って行く。

「……っ……」

頭に触れて来る悠鬼の手は自分でやるよりもずっと気持ち良く、一角は徐々にウトウトし始めてゆっくり瞼を閉じて行く。

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