第2章 微かに伝わる熱【2】
『それでは資料を頂けますか?』
香夜は頷き持っていた資料を差し出す。
『これが無ければ作業を進めることか出来なかったので助かりました。有難うございます』
そう言って泉は微笑んだ。
普段見ることない優しげな表情に胸が高鳴る。
ーー泉くんてこんな風に笑ったりするんだ。
『役に立てたなら良かったです』
泉が香夜をじっと見つめる。
『……前から気になっていたのですが』
『?』
『貴女は俺と同じクラスで歳も一緒のはずですが、どうして敬語を使うんですか?』
『それは泉くんも同じだと思うんですけど…』
『俺は誰に対してもこの口調です。ですが、貴女は仲の良い友人に敬語は使わないでしょう?』
『そ、れは……』
『それは?』
ーー言えない。話すとき緊張するから、好きだから敬語で話すようになってるなんて。
どう返せばいいか分からず俯いていると『それに…』と泉は続けた。
『俺と話すとき殆ど目を合わそうとしないのは何故ですか?』
どうしよう……何て答えればいいの。
『……俺のことが嫌いだからですか?』
悲しみを滲ませたその声にバッと顔を上げる。
『ちっ、違います!』
ところがいざ彼を見てみれば、全く悲しそうな表情などしていない。
ーーだ、騙された。
口元を手で隠し、くすくす笑いながら香夜の方へと歩みを進める泉。そこから距離を取るように後退る香夜。
『……っ』
そうこうしている内に背中が壁にぶつかり逃げ場がなくなった。泉が香夜の両脇に手を突く。
『もう逃げられませんよ』
間近に見つめられ息が止まりそうになる。
『俺のこと…どう思っているんですか?』
囁くように問い掛けるその声に、
もうダメだと口を開いた。
『す……で、…』
声が震える。
『泉くんのことが……好きです』
敬語を使ってしまうのも、目を合わせないのも、好きすぎてどうしたら良いか分からなくなってしまうから。
『……良かった』
その言葉と同時に香夜の身体が引き寄せられた。