第7章 *さいしょの一歩。【菅原孝支】
“綾乃もうかうかしてらんないね“
結局あれから午後の授業中も、そして放課後になった今でも友人の言葉が耳に焼き付いて離れない。
管原とはクラスが同じでよく話もするし、冗談だって言い合える仲だし、今のままでも十分幸せ。
だけどやっぱり友達以上になりたい、彼の大切な人になりたいって思うのも本心。
私はいつもそう。現状に満足しているフリをして、本当は想いをぶつけて今の関係が崩れるのを恐れているだけ。
そうやっていつまでも前に進めないまま、最後には後悔する臆病者。
素直にこの気持ちを伝えれば、管原はどんな顔をするのだろう。
なんてことを一人悶々と考えていれば、無意識に男子バレー部の練習場である体育館の前に立っていた。
固く閉じられた分厚い扉の向こう側に管原がいると考えるだけで、胸がきゅっと締め付けられる。
体育館の床とシューズが擦れる音を聞くだけで、必死にボールを追う管原の姿が目に浮かぶ。
こんなに彼のことばかり考えているのに、こんなに好きなのに、いざ目の前にすると何も言えない。恐くて言わない。
「…管原のことが好き。」
深く息を吸い、体育館に向かって一人呟く。
扉一枚挟んだ距離なら、こんなに簡単に言えるのに。
「谷口…?」
誰に届くでもない、届けるつもりもない告白をした私の後ろから、私を呼ぶ声がした。
それは聞き覚えのある声で、一番気持ちを伝えたかった人の声で、一番聞いてほしくなかった人の声。
「すが、わら…?」
ゆっくり振り向くと、キョトンとした顔の菅原と目が合った。