第5章 *愛を込めて、花束を。【黒尾鉄朗】
すっかり覚めきった目で、頭から足の先までジッと見る。
うん、どこからどうみても正真正銘の黒尾鉄朗だ。
「お前ん家着いたら、丁度買い物に行く綾乃の母さんと鉢合わせして……"綾乃寝ちゃってるけど入っていいわよ"って言われた。だからお邪魔した。」
「そ、そうなの?………………っじゃなくて!!今日、予定あるって言ってたじゃん…!!」
あれが夢でないのなら、確かに黒尾は言ったはず。今日は会えない、と。
なのになんで、私の部屋に平然とした顔で座ってるんだコイツは。
「あー…言ったな。予定あったけど、やっぱなかった。」
「なっ…なにそれ、意味わかんない!私結構本気で―………っ!?」
"本気で寂しかったんだから"。そう言おうとした私の唇は、彼によって塞がれてしまった。
いつもよりちょっとだけ強引な長めのキス。
「ハッピーバレンタイン。」
重なりあった唇が離れ目を開けると、目の前に綺麗な一輪の薔薇が差し出された。