第4章 *はじめてのキスは【岩泉一】
「確かに1秒でも長く練習してぇし、1回でも多く試合もしたい。俺は部活のことはすげぇ大事に思ってる。けど、綾乃のことはバレーよりもっと大切にしてぇんだよ。何かあったら心配するし、ずっとそばに居たいとも思う。絶対離したくねーし、離れたくもない。今だって俺がここに居たかったから勝手に居ただけだ。だから綾乃が謝んな。」
岩泉先輩は私から少しも目を逸らさずにそう告げると、軽く私を抱きしめてくれた。
…この人は本当に、ずるい。
ハッキリ言って、恋愛に関してはすっごく鈍感だし、ちょっと抜けてるところもある。
だけど、言葉の一つ一つ全てが私を惑わせ、私はもっともっと彼のことを好きになってしまう。これが、嘘偽りの無い岩泉先輩の心からの言葉だってわかるから、尚更だ。
「岩泉…先輩。」
岩泉先輩の腕の中から開放されると、私たちはお互いに見つめ合った。彼の瞳は、相変わらず真っ直ぐで綺麗だ。思わず吸い込まれてしまうのではないか、という感覚に落ちるくらいに。
そのまま、長い、長い沈黙。
そして、また岩泉先輩がそれを破った。
「…綾乃、目ぇ閉じろ。」
…本当、この人はちょっと抜けてるところがある。
でも、そんな岩泉先輩だからこそ…好きになったんだ。
私はゆっくりと目を閉じた。
―目を閉じて、3秒後。
私の夢が、今叶う―――
ピロリン♪
―――ハズだった。