第4章 *はじめてのキスは【岩泉一】
それは、私の夢が叶う寸前。
私と岩泉先輩しか居ないはずの保健室に、明らかに場違いな可愛らしいシャッター音が響いた。
予想もしなかった出来事に思わず目を開けると、目の前の岩泉先輩はふるふると小刻みに震えていた。俯いていたため顔は見えなかったけど、私にはわかる。これは、岩泉先輩がブチギレる数秒前だ。
「何やってんだよ及川!俺は知らねーぞ!」
「だからあれほどやめとけって言ったのに……俺も知らねーぞー。」
「えっ俺のせいなの!?」
あれで隠れているつもりなのだろうか。コソコソと話し声がする方をジロリと見れば、そこには覗き魔3人の姿。
「………………お前ら………何やってんだよ……。」
ゆらりとその場で立ち上がる岩泉先輩。いつもと違い淡々とした口調だけど、このときの彼は、少なくとも私が今まで見てきた中ではトップレベルの恐さだった。
「いや、違うんだよ岩ちゃん落ち着いて!
部活終わったから様子見に来たんだけど、なんかいい雰囲気だったから幼馴染として岩ちゃんの勇姿を見届けようと―
「言い訳無用だクソ川ボゲェェェ!!!」
「いったい!岩ちゃん!痛い!!」
案の定、岩泉先輩の怒りの矛先はまず及川先輩に向けられた。
「おー…今回は相当怒ってるな。」
「そりゃそうだろ。」
いつも通り及川先輩に天罰を下す岩泉先輩を見て、呑気に笑うもう2人の覗き魔。
「…花巻先輩、松川先輩。じっくり説明してもらいましょうか。」
私はベッドから起き上がりその2人に歩み寄ると、優しい笑顔で尋ねかけた。そう、優しい笑顔で。
その後のことは、ご想像にお任せします。
―結局、
岩泉先輩とキスをするっていう夢は叶わなかったけれど
岩泉先輩に愛されてるってだけで十分に幸せだし
無理してそんなことする必要もない…かな。
だって、私は誰よりも岩泉先輩を愛してるし
岩泉先輩も何より私を大切にしてくれてるってこと
ちゃんとわかったから。
*END
→あとがき。