第3章 *あめあめふれふれ【及川徹】
「げっ……。」
突如聞こえた声の主。その正体は一瞬にしてわかった。私と同じクラスの―…
「げって何!?綾乃ちゃん!」
及川徹という男。
何故彼が今こんな時間に此処に居るのだろう。今日は月曜日だから部活も休みだったハズ。
…っていうか
「…つかぬことをお聞きしますが及川サン。」
恐る恐る口を開き、踵をトンと鳴らして靴を履く及川を見ると、彼は ン?と首を傾げてこちらに目を向けた。
「"起きてたんだ!"とはどういった意味でしょうか。」
「えっ、あー…、さっき綾乃ちゃん寝てたでしょ。教室で。」
…………やってしまった。
予想はしてたが事実であって欲しくない答えが返ってきた。
よりによって及川に見られるなんて……最悪だ。
「いやー、なんか意外っていうか……本好きなの?」
「いいと思うよ文学少女とか!狙っちゃう!?」
人の気持ちも知らないで次々と墓穴を掘ってくる及川徹。こいつ、絶対私をからかって遊んでいる。これ以上言われるとヤバイ。私が。
「どっ…どうでもいいでしょ!!てかなんで及川がこんな時間に居るの!?」
「俺だって色々頼まれ事してたの〜!
……まぁ、すぐ終わったんだけどね。」
「エェ……及川に仕事頼む人なんて居るの…?」
冷たい目で及川を見れば、ヒドイよ!と返された。相変わらず、怒ってんのか喜んでんのかどっちだよ、とツッコミたくなる。
「もういい!及川さん帰っちゃうからね!」
「お気をつけて。」
「え………。」
わざとらしく頬を膨らませる及川に冷たい言葉を返せば、今度は悲しそうな顔をされて思わず噴き出しそうになった。なんとか耐えたけど。
「…綾乃ちゃんも早く帰った方がイイよ!天気予報だと今から雨降るらしいから。」
「あー…だろうね。及川傘持ってる?」
「もちろん!!」
「今出さなくていいから。」
おそらく鞄に入っているのであろう折りたたみ傘を取り出そうとした及川を止めれば、綾乃ちゃんは?ちゃんと持ってる?と聞かれたから、持ってるよ。と答えておいた。
「じゃあ、また明日!」
「ん、バイバイ。」
フンフンと何かの歌を口ずさむ彼の姿を見送ると、時刻はもうすでに18時10分を過ぎていた。