第1章
どれ位飲んだのか分からない、濃厚な果実味にしっかりとした酸味のワインの合間におつまみの鳥のレモンガーリック焼きをいただく。こちらもすごく美味しい。きっとルームサービスではなくワタリさんに作らせたんだろうな、とぼんやり皿の縁を見つめながら思った。私はだいぶ気持ちよくなっていた。
視界の真ん中では竜崎が薄く微笑んでいる。それにしても彼は酒に強いようで、私の倍は飲んでいるのに顔付きは全く変わらない。
「夢子さん、顔が赤いですよ。もうギブアップですか?」
「ンフフ、まだまだ、飲めますよぉ」
少し呂律が回っていないのは自分でも分かったが、どうしようもなかった。天井のシャンデリアがゆらゆらと歪んでいるのは酔っているせいだった。
…それよりも竜崎、今私のことを名前で呼んだ?
声の方に視線を移すより先に、彼は音もなく忍び寄り私の横にちょこんと座っていた。前髪同士が触れ合うほど近い距離で視線が交差する。