第1章
静まり返った捜査本部。聞こえるのは私がタイプするキーボードの音と時たま何処かで回転する機械のファンの音だけだ。
竜崎の方を見やると相変わらず無言で複数のモニターを見つめている。ーー片手にはおそらく角砂糖が並々入っているであろうコーヒーを持って。
いけない、このままでは終電を逃してしまう…集中集中。再びパソコンのモニタに顔を向けたとき、「夢さんは」という竜崎の声がした。
ふいをつかれた感じがして、思わず少し上ずった声ではいっ、と答えてしまった。
振り向くと竜崎は既に私の後ろにいて、椅子の上で膝を立てている。大きく見開かれた、黒々とした瞳はワタリさんが良く淹れてくれる特別ブレンドのコーヒーを思い出した。何を考えているのか私には到底分からない。