第11章 光
「どちら様ですか?」
「斎藤だ。入ってもいいだろうか」
「一様? はい、どうぞ」
戸を開けて入って来た斎藤は、志摩子の姿を見つけると何処か安心したように近付いた。
「怪我はなかったか?」
「昼間のことですか? はい、大丈夫ですよ。すぐに一様が来て下さいましたから」
「そうか……。怖い思いをさせて、すまなかった。そう山崎も言っていた」
「いえ、刃を向けられるのは何も今回が初めてではありませんから」
「……それはどういう意味だ?」
志摩子の手が止まる。伏せがちだった目は、斎藤を映すために上げられ何処までも深い紺碧の瞳が、斎藤だけを映し込む。
「蓮水家では、なかなか女に恵まれず……血を絶やさぬようにと様々なことが行われてきました。そんな中、女として生まれた私は歴代の中でも大変大事に育てられてきたそうです。兄様からそう聞かされました」
「……」
「けれど子孫を残すため、他の里から女を奪おうと刀を持った輩が度々蓮水の家を襲いました。その度に、何度も私は危険な目に遭ってきました。そうして幾度も危険を繰り返すごとに、私には……相手の攻撃が全て見えるようになりました」
「……だからあんたは、あの雨の強い稽古の日。俺の手から弾き飛ばされた木刀を、避けれたのだな」
志摩子は静かに頷いた。それは訓練したついたものなんかではない。何度も繰り返し危険な目に遭い、本能というものだろう。危機回避能力がついたということなのだろう。