第41章 花嫁
時代は変わり、刀が必要のない新しい時代が訪れた。同時に、斎藤は己の誇りを捨てなければいけないのかもしれないと思い始めていた頃、近所に大きな道場があることを村の人に教えられる。確かに刀のない時代が訪れ、剣術など必要ないのかもしれない。
けれど、その道場では古き武士の魂を新しい世代にも、と今までと形は違えど武士の魂を持って幼い子供達に剣術を教えているらしかった。丁度、人手不足で斎藤に指導者になってみないかという提案が持ち込まれる。
最初は渋っていた斎藤だったが、志摩子が背を押したことでこれを承諾。
斎藤にとっても、幸せな時が流れ始めていた。
「それにしても……そのお酒、どうしたらよいのでしょうね? 私達だけでは、とても飲み切れないと思いますが」
「いや、その……これはそういうものではないのだと、思う」
「そうなのですか?」
「ああ、そ、そうだ。これは……俺達が飲むべきものでは、ない」
斎藤は大切に保管するように、お酒を棚へと直した。折角貰った物なのだから、頂けばいいのにと口にする志摩子に斎藤は「いや、これは駄目だ」の一点張りだ。結局頂いたお酒の意味さえわからないまま、仕方なく斎藤へと寄り添って二人は縁側で桜を眺めていた。
「綺麗ですね、桜」
「ああ、そうだな。屯所で見ていた桜と……どっちが綺麗だろうか」
「ふふ、それ……以前にも仰っていましたね。そんなに屯所から眺めた桜は美しかったですか?」
「ああ、勿論だ。元々は桜の木など屯所にはなくてな、だが近藤さんが桜は新しい時代の訪れを運ぶ橋渡しの花だと騒ぎ出してな。急遽、皆で桜の木を持ち寄って庭に埋めたのだが始まり。総司は女みたいだ、と終始嫌がっていたがな。だが何度も繰り返し咲き誇る桜に、いいもんだと言い始めた時の近藤さんの嬉しそうな顔。今でも、思い出せる」
「素敵ですね……では、皆様にとって桜は思い入れの強い花なのですね」
志摩子は庭に出て、舞い散る桜の花びらを上手く掌の上に乗せると、指で摘まみ上げて斎藤へと見せた。