第41章 花嫁
はらり、はらり。
白い桜が舞い散る。
「志摩子、身体に障る。早く中に入れ」
「一様……」
羽織を着たまま桜を眺めていた志摩子は、振り返った先にいる斎藤に微笑みかける。仕方ないとばかりに、斎藤は志摩子へと寄り添うように立つと同じように淡い桃色の花をつけた桜を眺めた。
「見学に行った道場はどうでしたか?」
「ああ、教えるほどの腕を持つ者がいなかったらしくてな、明日から通い来てもいいそうだ。しかし、俺に勤まるだろうか? 子供達の剣の指導など」
「ふふっ、心配なさらなくとも大丈夫ですよ。一様はよく相手を見ていらっしゃいますから。子供達もすぐ一様に懐くことでしょうね」
「そうだといいのだが」
戦から離れた二人は、あの時の言葉の通り北の地へと辿り着いていた。小さな家屋を住処とし、静かな時を過ごしていた。
「……っ」
「一様? いけない……っ」
苦しそうに胸元を押さえて、蹲る斎藤を見て志摩子を相変わらず懐に入れていた小刀を手に、血を流す。それを斎藤の口元へ近付ければ、斎藤は黙って志摩子の血を飲んだ。発作が治まったのか、ゆっくりと息を吐いて志摩子の腕を掴んだ。
「一様、大丈夫ですか?」
「ああ……大丈夫だ。いつも悪いな」
「何を仰るんですか。私と一様は、運命共同体! 当然のことをしたまでですよ」
隣で笑い合える、すぐ傍に体温を感じ合うことが出来る。今はただ、志摩子にとってそれが何よりも嬉しくて。そんな志摩子の心を読み取ったかのように、斎藤は傷の出来た志摩子の腕を舐めた。
「は、一様!?」
「傷が癒えるとはいえ、痛みがないわけではないだろう」
「確かにそれはそうですけど……一様が苦しいのは、嫌ですよ、私は」
「まったく、志摩子には敵わないな」
揃って家の中へと戻ろうとすると、遠くの方から「志摩子ちゃーん」と男の人の声が聞こえてくる。はて、と志摩子が首を傾げで振り返ると近所の人が大きな瓶を抱えて走ってきていた。