第40章 旗
「馬鹿な……ことをっ!!!」
天の攻撃が、大きく斎藤をのけぞらせる。その隙にと、天の薙刀の刃が深く斎藤の肩を傷付けた。鮮血が飛び散る。
「一様!!」
「くだらないっ! くだらない、くだらない、くだらない……ッ!! 姉様は、この愚かな世界に毒されているだけなんだ!! ボクが、ボクが姉様を今すぐこの世界から助け出してあげるから……!!」
「くっ……、いい加減にしろッ!!」
斎藤は痛みで顔を歪めながら、刀を握り直し再び対峙する。羅刹の力か、受けた傷は少しずつ癒えていく。だが鬼の治癒力にはやはり大きく劣る。未だ血は滲み、ぽたぽたと畳に赤を広げていく。
「あんたの勝手な理想論に、志摩子を巻き込むな!! あんたがこの世界をどう思おうと、人間をどう思おうと構わん。だが、志摩子の抱いた感情を出会ってきた全てを否定するような真似を、俺は許すわけにはいかない……っ!」
何処にまだ力が残っているのか。そう疑いたくなるほどに、天を押し退けるような斎藤の反撃が始まる。互いに傷を負いながら、血を流しそれでも何かのために自分のために誰かのためにと、その手をけして止めることはない。
戦うということ、守るということ。何かの拍子に道を間違いながら、それでも前へと進んでいく。認められないことがあるだろう、許せないことがあるだろう。けれど最後に望んだ今を手にすることが出来るのは……紛れもなく自分自身を信じて貫いたものだけなのだろう。
天は志摩子と斎藤の言葉に揺れながら、血が滲むまで唇を噛む。何故倒れない! どうして何もかも諦めない! 鬼と人間、鬼と羅刹、力の差はわかりきっているはずだろうに……斎藤の一撃、また一撃は天の想像以上に重い。