第40章 旗
「天を、止めて……やってくれ。あいつは、あいつをあんな目に遭わせてしまったのは俺の責任だ。あいつは……唯一無二の、志摩子の……"血の繋がった"弟なのだ。まだそれを、あいつらは互いに知らない。教えて、やってくれないか?」
「教えてどうする。天も護身鬼、ならば俺は奴を殺す。必ずだ」
「あの二人だって、もう子供ではないのだ。真実を知る権利くらい……あるさ」
「俺に頼み事など、正気か?」
「……志摩子を、お前は……大切に想ってくれているのだろう? あの子に何も言わず、語らず、自分で全てを片付けて終わらせるつもりだったのだろう?」
「よく喋る鬼だ」
「ああ、あの斎藤という男……最後に手合わせてして、見極めて……やりたかった」
それだけ告げると、栄は静かに息を引き取った。灰となり消えていく栄の身体、残ったのは風間が突き立てた刀だけだった。風間は刀を鞘に戻すと、城を見上げる。全ての気配は、最上階へと留まっていた。
「厄介ごとばかり押し付けてくれる」
風間はすぐに走り出し、城の中へと姿を消した。
◇◆◇
今までで一番激しい攻防戦が始まる。ほんの僅かな隙間さえない、互いに見逃さぬように深く斬りこんでいく。腕に、足に、傷を作りながら。
「ボクが人間なんかに……っ、紛い物などに負けるわけがないだろうっ!!?」
「俺も、あんたに負ける気はないっ!」
まるで鬼神のように、目で追いかけるのが困難なほどに。二人の刃が交わる。志摩子も、そこにいた誰もが静かに二人の戦いを見守っていた。
戦いの終わりの向こうを、きっと誰も想像できやしない。どちらかが終わりということ、それは死を意味している。互いに手を取り合えない現実。それは人と鬼だけの話ではない。今この時代に起きている戦争も同じ、互いに同じ人間であるにも関わらず何かをきっかけに抗争は起き激しく傷つけ合う。殺し合い、奪う。互いに失いながら、思い描く未来に向かって。
それは目の前にいる、この二人にも言えることだろう。