第38章 動
「風間」
「……天霧か」
風間と共に行動を共にしている鬼、天霧が姿を現す。もう一人、不知火がいないことに不意に風間が尋ねた。
「不知火はどうした」
「また何処かで遊んでいるのでしょう。ところで、彼女のことなのですが……どうやら最上階に幽閉されているようです。どういうわけか、雪村千鶴と共に」
「雪村千鶴だと? ふんっ、女鬼は貴重だからな。なるほど、土方が血眼で仙台を目指していた理由も頷ける。正面以外に入り込めそうなところはあったか?」
「他に裏口がありますが……どちらも同じくらい強固な警備が」
「ふん……ならどちらから行っても同じだな。天霧、正面をやれ」
「わかりました」
天霧は風間の指示に従い、正面から上手く入り込むこととなった。上手く、と言っても正面だ。そう容易くはないだろう。しかし風間達は、逆に裏口を攻める。同時に正面と裏口を攻めて、軽く混乱させる作戦のようだ。
茂みに隠れ、裏口の様子を風間と斎藤が伺う。
「斎藤、お前に渡しておくものがある」
「なんだ」
風間な懐から、赤い液体が入った小瓶を斎藤へと差し出す。斎藤はその中身を知らないはずはなかった。
「俺に変若水を渡して、どうするつもりだ?」
「いざという時のために取っておけ。だが変若水を飲み、羅刹になるということがどういうことなのか、忘れるな」
受け取るべきか……。斎藤はじっと瓶を見つめて、それからすぐに小瓶を受け取った。出来ることなら、使わなくて済む展開を期待するがそうもいかないだろう。