第37章 幻
「一君っ!!」
「……っ、総司。お前も、来ていたのか」
「志摩子ちゃんのところに行くんでしょ!? 僕も連れて行って! 僕は最後まで……例え、この命が尽きても。志摩子ちゃんを守ってあげたいんだ」
「……好きにしろ」
止めるのかと思いきや、斎藤は沖田に背を向けてすぐさま歩き出した。沖田はぎゅっと刀を握り締めて、山崎へと告げる。
「君は、もしも志摩子ちゃんが此処へ戻って来た時のために待機していて。いいね?」
「……わかりました。どうか、お気をつけて」
風間は溜息を漏らして、後ろに着いて来る二人を見た。文句の一つもなく、風間は先導するように生い茂る森を抜けていく。沖田を気にかけながらも、斎藤は風間の後を追いかける。三人が向かう先は、明日の見えない道の先だった。
◇◆◇
ゆらゆらとする視界の中、志摩子は手を伸ばした。ひんやりと冷たいものが、頬と全身を襲う。
「目が醒めましたか?」
ゆっくりと目を凝らして、視線を上げれば自分が冷たい牢の中にいることを瞬時に理解する。同時に、視線の先に見たことのある人物が怖い顔をして志摩子を見下していることに気付く。
「さん……山南様?」
「ちゃんと私のことがわかるみたいですね。それはよかった、藤堂君。志摩子さんを見張っていて下さいね」
「……ああ」
山南と共に現れた藤堂は、志摩子を見ようとはせず視線を外したまま近付いてきた。志摩子は身体を起こすと、未だ状況が呑み込めないまま藤堂へと声をかけた。