第35章 誓
「志摩子よ、俺の名に意味があることを知っているか?」
「……存じておりません」
「俺の"栄"という名はな、栄えさせるという意味を持つ。蓮水を繁栄させ、立派にするという役目を持つ名だ。俺はそれに誇りを少なからず持っている」
「……」
「俺は何を犠牲にしても、何を捨てても、お前だけは守っていくつもりだ。例え蓮水を……父を敵に回そうともな」
「兄様……?」
「お前のためならば、この命でさえもくれてやる。心配するな、お前を傷付けようとする存在は、俺が全て消してやる」
兄の濁った瞳が、私を見つめていることに気付く。兄には私しか見えておらず、それ以外の者のことなど眼中にはないかのように。酷く盲目的で、それでいて恐ろしい。
「志摩子。俺にとっては、お前以外の存在など何の価値もない」
迷うことなく断言された言葉は、鬼のようだった。いや、彼は……まごうことなき鬼だ。
まもなくして、私の前から天がいなくなった。あの日を境に、兄により隔離されていた天。私は何度も会いたいと兄にお願いをしたのだが、今の天はお前を傷付けるから駄目だとそればかりだった。
私が程なくして天と再会することとなったのは、もう随分後の話となる。
◇◇◇◇
『迎えに来たよ、姉様』
聞き慣れた声が、やけに耳に張り付いて離れない。思わず顔を上げるが、そこにはらん様しかいなかった。