第33章 心
慶応四年一月。旧幕府軍と薩長軍にの間で、戦いの火蓋が切られた。世にいう、鳥羽伏見の戦いである。新選組もまた刀を持ち、その戦に参戦していた。数で言えば、旧幕府軍が優勢であったが最新兵器を装備した薩長軍を前に、旧幕府軍は完全に圧倒されていた。
薩長の持つ最新兵器の銃は恐ろしく長く、どの部隊も敵陣深くまで斬りこむことは出来なかった。寧ろあまりに一方的な戦いとなり、旧幕府軍の勢力は落ちる一方であった。新選組は撤退の決断を降すが、道中で井上を失う。
将軍が江戸へ撤退したことにより、戦況は更に悪化。
夜襲をかけた羅刹隊も、薩長側に羅刹をよく知る者がいるらしい。銀の弾丸は羅刹の弱点らしく、ほとんどの羅刹隊が死に絶えた。
新選組は、江戸へと大きく後退する他なかった。
新政府軍の圧倒的な力の前に、時代は刀では切り開けない領域へと大きく変化していった。
◇◆◇
一方、志摩子達は戦火から随分離れた地まで逃げ延びていた。丘を登り、海が見えたところで二人は息を吐いた。
「結構遠くまで来ましたね」
「そうだな……。よく此処まで敵に遭うことなく来れたものだ」
「運がよかったのでしょうか?」
「そうなのかもしれないな」
「あら、山崎ちゃんじゃないの」
志摩子が顔を上げると、金色の長い髪がゆらりと揺れるのを視界に入れる。青緑色の大きな瞳が、物珍しそうに志摩子を見下ろした。声からして、どうやら男のようだ。それにしてもあまりに綺麗な女性のような容姿に、志摩子は目を丸くした。