第30章 劔
「いっ……!」
「鬼は回復が早いからね。これで終わりじゃないよっ!!」
傷口が痛む。必死に手で傷を抑えながら、志摩子は打開策を模索するようにしっかりを目を開け、南雲を捉えた。
ほんの数秒、捉えた視界の中に飛び込んでくる者の姿を僅かに捉える。
「ああ……鬱陶しい」
その者は苛立ち、鬼のような形相で鋭い金色の瞳で、南雲も睨み付けていた。刃を弾く音、空を斬る音、舞う着物の裾。長い棒が志摩子の目の前を横切って、南雲の二の腕付近へと斬り込んだ。
「……ッ! 誰だ!?」
南雲は斬られた場所から血を流し、一歩退く。
ゆらりと、まるで影のように降り立ってはその存在感を醸し出す。
「煩い、殺すよ」
血走った眼、何度か目の当たりにしたことがある薙刀。けれど風貌は、前とは違って見えた。白銀の髪、金色の瞳に頭に二本の角。
――これは、鬼だ。
「姉様をいじめて楽しい? いいよ、ボクが遊んであげる……ッ!!」
「蓮水天か……っ」
南雲は大きく後退した。
力任せに振られた薙刀は、広範囲で被害をもたらした。近くにいた南雲達の羅刹隊を薙ぎ払うと、死んでいく羅刹の姿を見て恍惚の笑みを浮かべる。
「死はいいよね……ッ、ぞくぞくする!! ボクの手で誰かの時が止まる様を見るのは、一番飽きない!」
高笑いを浮かべながら、次々に天は羅刹を殺し歩き始める。もう志摩子の姿さえ、彼の目には映っていなかった。まるで殺戮を楽しんでいるように見えた。志摩子は手を床につけ、恐怖で完全に麻痺し始めた身体を引きずって、出来るだけ天から離れようと試みる。