第25章 幸
「宿に戻ったら風間は一度着替えた方がいい。鬼とはいえ、そのままでは風邪を引きます」
「俺に指図するな」
都に戻れば、お前の姿を探してしまいそうになる。これもまた、俺が変わったということなのだろうか。
◇◆◇
俺が都に戻った後、薩摩藩に手を貸すと同時に度々外に出る機会が増える。そうすれば、稀に志摩子の姿を見かけることもある。新選組と一緒にいるせいか……いとも簡単に見つけることが出来る。
あの斎藤とかいう男の隣で、笑うあいつを見て……けして俺の隣で笑ってくれているわけではないのだと実感する。そうだ、俺の隣に志摩子はいない。俺はあいつを迎えに行かない。今は、まだ。
「風間、新選組が変若水の携わっているという情報を手に入れました」
「新選組が……? 何故人間如きが、変若水なんぞに」
「人間だからではないでしょうか? 情報源は綱道のようです」
「綱道……雪村の分家鬼か」
「南雲薫と一緒にいました」
「南雲……」
南雲と言えば、大四家の一つである南国を統括しているはずの鬼。そういえば、南雲家に新しく養子で鬼の子を迎えたと遠い噂で聞いていたが。南雲の姓を持つということは、つまりはそういうことか。
「とても雪村千鶴に似ていましたよ」
「……雪村が堕ちた時に、拾われでもしたか」
「とは言っても、男鬼ですが」
滑稽を通り越して、いっそ哀れだな。南雲家と言えば、随分前から女鬼が生まれず子孫問題が浮き彫りになっていたばかりのはずだ。女鬼だとでも思って養子に迎えたに違いない。
だが所詮は男。成長と共にばれるに決まっている。そうなれば、その南雲薫とやらにとっては生き地獄と化すか。女鬼でないと知れば南雲家は奴を手荒く扱うことだろう。