第25章 幸
「鬼であるはずの貴様らが、何故羅刹と同じ瞳の色をする? 答えよ」
「そうですか……気付いていましたか。とても、簡単なことですよ」
鬼であるはずの奴らが、羅刹と同じ姿を借りる。鬼の証であるはずの角さえ、最早目にせぬとは……一体どういうことなのか。まぁ、大方その理由は、わかる。
「我ら護身鬼は……天様以外、全て変若水に手を出しています」
「……やはりそうか」
「我らが独自に護身鬼用に開発したもの。どうやら、副作用のようで……力を増すと共にその代償で、鬼としての姿を失います」
「……所詮貴様らは、鬼でもないということか。はっ、実にくだらん」
こんな愚かな者達に、志摩子が守られているのかと考えるだけで反吐が出る。俺は突き刺さっている刀を、更に強く奥へと推し進める。男は血を吐き、苦しそうに虚ろな瞳で俺を見ては未だ言葉を続けようとする。
「そうですね……くだらないと思います。我らは元々、志摩子様と天様以外人間の血が半分流れておりますから。こうでもしないと……彼女を、守り切れないのです」
「……安心しろ」
俺は刃を抜くと、もう一度深く奴の心臓を目がけて突き刺した。
「ぐあ……ッ」
「貴様らが守る必要などもうありはしない。俺が……志摩子を守る」
「……そう、ですか……。ぐぬッ……、その言葉が聞けて……俺は、満足です」
「天という男、一体何者だ。何故貴様らと行動を共にしない?」
「……俺達が、変若水に手を出したからでは? 詳しいことは栄様しか知りません……。俺には……何も」
「そうか」
男の目から正気が失われていく。生きている、という光が俺によって奪われたのだ。男はゆっくりと首を垂れて、そのまま動かなくなる。