第20章 蝶
「来年は絶対志摩子を祭りに夜通し連れまわす!」
それだけ大きな声で宣言すると、藤堂は千鶴と共に再び祭りの喧騒の中へと消えていく。なんだかんだで、歳も近そうな二人は意外にもお似合いな気がして。少しだけ志摩子は微笑ましく思っていた。
ふと土方を見れば、複雑そうな顔でいつまでも二人を見つめているようだった。
「歳三様、気になるのですか? あのお二人が」
「あ? 別にそんなんじゃねぇよ。行くぞ」
土方が手を伸ばす。志摩子はその手を取っていいのか、迷っているらしく視線を泳がせそわそわと両手を胸に抱いていた。
「あれからお前は……俺に極力触れられるのを拒む様になったな。知ってたか?」
「え……?」
「俺が……風間の伝言を預かったあの日から」
「……それは気のせいです」
「嘘だ。俺と距離を取るようになった。俺が気付かないとでも思ってるのか? お前自身がどうかは知らねぇが」
一歩、土方は志摩子へと歩み寄る。合わせるように志摩子が一歩退く。それが全てだった。志摩子の口から聞かなくとも、彼女は意識的であろうとなかろうと。土方から確かに距離を取った。
「そんなに俺に触れられるのは嫌か」
「ちが……っ」
「……っ」
力強い手が、志摩子の腕を引く。
土方の冷たい唇が、彼女の唇を奪う。
逃げようとする志摩子を抱き、押さえ付ける。角度を変えて、貪るように彼女を求める土方の姿は、獣のようだった。
ねっとりと絡み合う舌に、志摩子は今まで以上に抵抗をみせる。
銀色の糸が引く。離れた唇に、名残惜しそうに土方が志摩子の唇を一舐めすれば、志摩子が咄嗟に彼の頬を打った。
乾いた音がこだまする。