第20章 蝶
「平助様、どうかなさい……」
「やっと見つけたぞ……この馬鹿野郎とじゃじゃ馬娘!」
「な、なんでこんなとこまで追いかけて来てんだよ土方さん!!」
「はあ!? 俺は志摩子を連れ出す許可を出しちゃいねぇ。連れ戻しに来るのは当然だろ!?」
「土方さん大人気ないっ! 志摩子だって年頃の娘だぞ!? ちょっとくらい人生楽しませてやれよ!」
「お前は逆に人生楽しみすぎなんだよッ!!」
珍しい口論。互いに睨み合い、胸倉を掴み合う。人混みのせいで、この光景は当然だが目立つ。周りにいた人々が「何だ、女の取り合いか?」「兄ちゃん達やれやれ!」と野次を飛ばし始める。
「お二人共! い、行きますよ」
志摩子は一目散にその場を離れるために、強引に二人の手を引き歩き始める。冷やかしの口笛が背後から多数聞こえて来た。
「だって土方さんが志摩子に優しくねぇから!」
「俺がいつ志摩子に優しくねぇだと!?」
「も、もうっ! お二人共おやめください。みっともないですよ……まったく」
「じゃあ、志摩子は土方さんの言うことを聞くってのか!? 祭りはこれからだろ!?」
「帰るぞ志摩子! わかってんだろうな!?」
「……勘弁してください」
志摩子は大きく肩を落とす。まるで二人のやんちゃな子供を連れているようだ。暫く藤堂と土方の口論は続いた。
喧騒から少し離れたところまで来ると、志摩子はようやく二人の手を離した。