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薄桜鬼 蓮ノ花嫁

第19章 道



「俺の名は蓮水栄。蓮水家現頭首、我が北国に位置する鬼一族を統括している」

「鬼……」


 斎藤はそう口にする。

 鬼とは一体何なのか、今日を含め鬼という言葉を風間と対峙した時にも聞いたような気がした。本当にそのような者達が存在しているのか、彼の言葉は誠なのか。

 例えどちらであったとしても、きっと斎藤のやるべきことは変わらない。


「鬼とはなんだ! あんたも志摩子も鬼だというのか? そんなもの、俺達が信じるとでも思っているのか?」

「別に信じなくてもいいさ。本来鬼は歴史の闇に覆い隠され、人にけして知られることのないように現在まで息を潜め生きてきたのだから」

「ならば、なにゆえ鬼と名乗り姿を見せる?」

「……志摩子の存在がそうさせる」


 斎藤がちらりと志摩子を一瞥する。彼女は未だ栄を瞳の中に捉え、逸らさずにいる。


「我が蓮水家は、代々鬼の一族として生き残るために様々な試行を凝らしてきた。だが……人間は浅ましい。自らの欲望のためであれば、他人を利用し蹴落とすことに何の躊躇いもない。そうして傷付けられた俺達鬼は、長い間人間の"奴隷"にされてきた」


 栄は一呼吸置くように、一度息を吐きまた静かに酸素を吸い込んだ。顔つきを変え、真剣な眼差しで射抜くように斎藤へと言葉を投げる。


「俺達は奴隷ではない……生きた家畜でもないっ!! だから俺達は長い年月をかけ、人との繋がりを絶ち縛られていた鎖を自ら断ち切って……身を潜め今日まで生きてきた。鬼の血を守るために、女鬼を選ばれた鬼達で守りながら。ずっと」

「兄様……? 女鬼を、守るとは……どういう、ことですか?」

「そうだったな。志摩子には、まだ何も教えていなかったな。何……いずれ知ることになるだろう」


 栄は刀を鞘におさめると、風のように消えていった。

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