第18章 病
「刀の使い道は、相手の命を奪うこと。ただそれだけ……単純にして明快な在り方に。何の迷いもなく、使い手の意のままに動く。俺も……そう在りたいと思う」
「迷いなく、ですか。それはとても難しい事ですね……人間は思考する生き物ですから。迷うことこそ、醍醐味のようなものです」
「心がなくなれば、迷うこともなくなるのだろうか」
静かに口にする斎藤に、志摩子はそっと斎藤の両手を取る。真っ直ぐと志摩子は彼を見つめると、真剣な眼差しではっきりと告げる。
「心は魂の道しるべ。そのようなこと、仰らないで下さい。一様に心がなくなってしまったら、こうして私と一緒に町に出かけて下さらなくなるではありませんか」
「……そう、だな」
斎藤はそのままぎゅっと志摩子の手を握ると、一番初めに出会った頃のように町を歩き回り始める。その時に比べれば、志摩子も少しは京の都のことを知ってきたように思う。
あの時と同じに見えるが、今の二人はけしてそうではないだろう。今しかない思いもあるだろう、今しか知らない互いのこともあるだろう。けれどあの時と同じものがあるとするなら、けして二人の心が交差することがないということ。
繋がれた手も、いつかは……。
町の中心部へと赴くと、千鶴が一人愛らしい女の子を背にして大柄な男三人に食って掛かっている光景が目に飛び込んでくる。
「どうしてか弱い女子供に暴力を振うのですか!? それでも貴方達は、武士ですか!」
「なんだと!? こんの餓鬼……ッ」
男が抜刀し、千鶴達へと刀を振り上げた途端、斎藤は志摩子の手を離し一気に駆け出した。そのほんの数秒、間合いに飛び込んだ斎藤の剣が男の喉元へと突き付けられた。