第30章 lovesickness 3 (月島 蛍)
月島said
僕は今日も桜井の病室を訪れた。ノックをしドアを開けると彼女は子供の頃のアルバムを見ていたようだ。その頬には涙が流れていた。
桜井は僕に気が付くと背を向けて涙を拭き、僕に笑いかけた。
貴「月島君、今日も来てくれたの?ありがとう。今日は練習休み?さっき影山君も来てくれたんだ」
月「うん、休み。桜井、泣いてたの?」
貴「えっと、目にゴミが入っちゃって・・・」
月「そんなコトないでしょ、頬に涙の痕くっきりのこってるのに。君、前から嘘つくの下手」
僕はベッド横の椅子に座る。
貴「・・・そっかぁ。あのね、さっきニュースを見て私と同じような事故があったんだ。その運転手の処分が”5年以下の懲役又は100万円以下の罰金 ”なんだって。私はこんな状態なのに、たったそれだけの罰で済んじゃうなんて、信じられないよね」
桜井は、アルバムに目を落としたまま一気に話をした。
貴「私ね、皆が来てくれるのはすごく嬉しいんだけど、申し訳ない気持ちがずっとあって・・・。だって、今の私は人形みたいなものだもの」
貴「自分の事や、まして皆の事なんて何一つ思い出せない。こんなに沢山の人に良くしてもらってるのに・・・。私が思い出せないことで皆がずっと悲しい思いをするぐらいなら、いっそのことあの時死んでた方がよかったんじゃないかって思ってきちゃって・・・」
桜井は笑顔を作ろうとしたけど、その顔はすぐ涙でぐしゃぐしゃになった。
月「そんな事・・・僕が許さないよ。桜井が記憶を失っていたって、君であることに変わりない。思い出は取り戻せないかもしれないけど、これから作っていける。僕が君を一人にさせない」
貴「月島君・・・?」
月「僕がどれだけ君の事を心配したと思ってるのさ」
桜井の腕を掴み僕は彼女を抱き寄せると、彼女を部室で抱きしめた事が僕の中で蘇る。あの時と同じだ。小さくて華奢な身体、柔らかい髪、そして君の甘い香り・・・。君は何一つ変わっていないのに・・・。