第6章 5日目
「ほら、あっちも御到着みたいだよ」
振り返ると、虎と猫がじゃれあっている景色だった。あれ、何故だか猫のほうが虎らしく凛々しいというか....不思議な感じだ。
ひゅっと風が吹き、いつの間にか銀猫と虎は人の姿になっていた。
「石田殿っ、紹介したい方が!」
「なんだ」
ぶっきらぼうなその言葉は私を不安な気持ちにさせるには十分だった。
「殿でござる」
「...っはじめまして、と申します」
銀猫の彼は何も言わずに私の目を、思考を見てくる。不快感はないものの、ひどく不安を煽る目だった。
何故、この人はこんなにも悲しい目をしているんだろう。
「...人間の女と馴れ合うつもりなどない。去れ」
「お待ちくだされっ、い、石田殿!」
心の奥底から私は、いや、人間を拒まれた。
「...あの方はさ、人間不信なんだよ。かつての時代で沢山裏切られてるからさ」
佐助は私にあの銀猫の方のことを教えてくれた。
かつての時代、それは幸村達が一心不乱に戦っていたあの時なのだという。
彼は総大将として大軍をまとめる立場であったものの、各地の大名の心を最後までつかみきることなく大戦で負けたらしい。
その前にも大切な友に裏切られ、大戦中にも寝返られ、尊敬していた方まで失ったとか。
「...嫌いになんないであげてってのも変な話だけどさ、悪いお人じゃないんだ」
見ていて、わかる。
あの人には確かに人を拒もうとする意思があるように感じた。でも、自らも人に恐怖し、動揺しているようだったのだ。
「なんか、悪い事しちゃいましたね」
「大丈夫だよ、多分そろそろ戻ってくるし」
「え?」
砂煙が見えたかと思うとそこから幸村...いや、虎が見えた。口元に何かくわえているようだ。
...銀猫のようだ。
「っはぁ!石田殿は足がはようござるっ!」
「離せ真田ッ!!私は帰ると言ったはずだ!」
「ほらね」
どうやら銀猫の名前は石田三成、というらしい。
銀色の美しい毛並みは、彼の髪の毛やまつげに出ているみたいだ。陽に照らされてとても美しく光っている。
「チッ...、おい、女」
私の方を一切見もせずに呼ぶ。
「は、はい」
「貴様は...裏切るのか」
いきなり何を、とは思ったが、先程の佐助の話を思いだして胸が苦しくなった。