第3章 この気持ちを何と呼ぶ*紫原*
自分の気持ちの名前がわかってから少しして、ちんと日直の当番になった。
「日直だから」っていう変な理由で先生から雑用を頼まれて、放課後の教室に二人きりになった。
資料を分けながらも、目の前に座ってるちんを意識してると、どうやら視線に気付かれたみたいで、伏し目がちだった瞳が俺の方に向けられた。
「どうかした?」
「んー…もうすぐクラス替えだし、ちんとこういうこと出来なくなるんだろーなーって思って。」
「そうだね…。」
そう言ったちんの表情が少し寂しそうに見えた気がして、さらに言葉を続けてみた。
「…あのさー、もし俺とクラス離れたら寂しい?」
俺の問いかけに対して、ちんは言葉を選ぶように答えてくれた。
「…紫原くん話しやすいし、こうやって話せなくなるのは寂しいかな。」
お世辞かもしれないけど、同じ気持ちでいてくれたことが嬉しくて。
こんなチャンスはもう来ないかもしれないと思って。
気付けば口から正直な気持ちが溢れてしまっていた。
「俺は嫌だよ、ちんと毎日教室で会えなくなるの。だって俺ちんのこと好きだから。」
わざと逸らしていた視線をゆっくりとちんに向けると、ほっぺたが真っ赤になって、固まってしまっていた。
「…ちん?」
ちんの顔の前で手をひらひらさせてみたら、我に返ったみたいで、ふぅーっと一息ついていた。
「…正直ね、今混乱してる。紫原くんのことそういう対象に見てなかったはずなんだけど…好きだって言ってもらえて嬉しいし…。ドキドキしてるのがずっとおさまらない…。」
「じゃあさー、すぐ決めなくてもいいから、これからお試しで一緒にいてくれない?それならどう?」
するとちんはこくりと小さく頷いて、柔らかく可愛い笑顔を見せてくれた。
俺の気持ちは「恋」っていう名前だったけど、その気持ちは何て呼ぶ?
その答えがわかるのは今じゃなくていいからね。