第6章 慶応三年二月十五日
慶応三年二月十五日。
千鶴は朝から山崎を探していた。いらぬ世話だとわかっているが友が無事本懐を遂げたのか気になって仕方がなかった。昨日の山崎の様子では七条へは行っていないかもしれない。そうだとしたら今からでも七条へ向かわせようと思っていた。だが一向に山崎は見つからない。会う者会う者にかたっぱしから尋ねてみるが、誰も知らないようだ。それでも昼を過ぎた頃、土方と話している山崎を見つけ駆け寄った。
「山崎さん!昨日はちゃんと七条へ、実桜ちゃんの所へ行ってくれましたか?」
「どうした千鶴、そんなに慌てて」
息せき切って現れた千鶴に土方が問う。
「山崎さん、昨日は七条へ行ってくれましたか?」
千鶴はもう一度尋ねる。山崎は短く答えた。
「ああ、七条へは行ってきた」
「良かった…それで、ちゃんと受け取ってくれましたか山崎さん」
「なんだ、何か渡すものでもあったのか、山崎?」
一人要領を得ていない土方が山崎に問うと、千鶴がそれに答えた。
「違いますよ土方さん。昨日はばれんたいんでいという、実桜ちゃんのいた所ではお世話になっている人に贈り物をする行事の日だったんです。実桜ちゃん日頃お世話になってる山崎さんへお礼がしたいからって準備してたんです」