黒執事 Christmas at midnight
第1章 序章 幕開け
世界の全てが自分のものになったなら、望むことは嘲笑うのと同じだろうか。一番をいくら望んでも難しいのなら、二番目に足をつけてしまえ。この世界を何度何度巡ろうとも、ただ一つの望みは叶えてはくれない。
「おや、お嬢様。お久しぶりですね。いかが致しましたか? ああ、私ですか? まさか……お忘れになったなどと仰るのですか?」
燭台を片手に、一人の燕尾服の男が姿を現せる。
「そういえば、御存じですか? クリスマスとやらを。英国では毎年、日本で言うお正月の時のように遠方から家族が総出で帰ってきてお祝いするのが一般的です。そして盛大にお祝いするのが習わしなのですよ」
男はにっこりを笑みを浮かべながら燭台を持って、暗い廊下を歩いていく。外はちらりと雪が舞い始め、どれくらい寒いのかを想像させる。もうすっかり季節は冬となり、誰もが身を震わせながらマフラーを首に巻き付けたり分厚いコートを着込む。
「お嬢様のお願い事は、一体何なのでしょうか……?」
望めば望んだ分だけ叶うとしたら、人は何を望むだろうか。世界を手に入れること? 愛しい誰かが自分に振り向いてくれること? そのどちらも違うとするならば、何を望むのか願うのか。