第2章 幼少期
ぼんやりと視界に雪のような白が広がった。
体を包む温かい感触に、布団をかけられているのだと認識する。
右手が覚えのある暖かさに包まれていることに気付き、目線だけで右手を見ると、もうすっかり見慣れた金色がベッドに頭を預けて寝ていた。
右手は逃がすまいとするように両手で力いっぱい握り締められていた。
(集落......)
ふと、うちはの集落が気になり申し訳ないと思いながらナルトの手を解き、病室を抜け出した。
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うちはの集落の門には、立ち入り禁止を意味する黄色いテープが雁字搦めに貼られていた。
そのテープを無視してうちはの集落に足を踏み入れる。
いつも、良い匂いを漂わせていた煎餅屋さん。
いつも、うちはの家紋を綺麗に染めてくれた染め屋さん。
いつも、頑張って。と声をかけてくれたおばさんの家。
もう、今では誰もいない廃墟と化したかつての故郷。
そして、遂にオレの家の前にやって来た。
引き戸を開けて見慣れた玄関に上がる。こうして帰ってくると母さんがとても美味しいお菓子を作ってくれていた。
道場では、厳しいけれど良い師であった父さんと痣だらけになっても修行をし続けた。
そして、オレの部屋では兄さんと一緒に本を読んだり、未来や忍術のことを話た。
でも、もう何もない。
空っぽの家を足を引きずるように徘徊する。
もしかしたら、もしかしたら。と淡い哀れな期待を持って未練がましく、歩き回る。
(もう、病院に帰ろう......)
そろそろ帰らなくてはと、足を滑らして玄関に足を向ける。
道場の扉が目に入った。
なんだか無性に入りたくなり、扉を力いっぱい開けた。
そこには父さんと母さんが倒れていた場所に、血痕もそのままに二人が倒れていた時の形を模した白いテープが貼ってあった。
もう、涙なんか枯れ果てたと思っていたのにまた涙が込み上げた。
その場に崩れ落ち、額を道場の床に擦りつけて泣いた。
大声をあげて泣いた。
ひとしきり泣くと、雲行きが怪しくなっていることに気がつき、起き上がる。
最後にテープを見てから外に出た。
雨が降って来た。
かなり強く雨粒が打ち付けてくる。
意識がぼんやりとし、睡魔が襲って来た。
その場に倒れて、睡魔に身を任せようとしたときに、赤い番傘と金色が見えた気がした。