第2章 幼少期
兄さんが立っていた。
返り血を浴びて。
いったい、誰の血ですか?
「兄さんが......皆を、殺したの......?」
「......察しの良い妹を持ったものだ」
呟いたその言葉は、遠回しに俺が言ったことを肯定していて、更に涙が溢れた。
「なんで......?兄さんが......」
「......己の器を、量るためだ」
その言葉は、無慈悲で、残酷で、でも、本当の兄さんの声には聞こえなかった。
本当に?本当に兄さんはそんなことの為に皆を殺したのか?
違う、絶対に違う!
兄さんはそんな馬鹿なことはしない!
兄さんはそんな感情の無い人じゃない!
「......嘘だ」
「何......?」
「っ、そんなの絶対に嘘だ!!」
見たことも聞いたこともない兄さんの声と顔にまた怖くなった。
でも、どうしても言いたかった。
言いたかったんだ......!だって、
「本当に、心の底からそう言う奴はそんな目をしない!!」
兄さんの目は、今にも泣いてしまいそうに揺れていたから。
ゆっくり、ゆっくり。兄さんに近付く。
母さんと父さんの亡骸も跨いで近付く。
兄さんの唇が震えて、来るな、と言った。
でも、止まりたくなかった。
兄さんの前にまで来て、いつもみたいに抱きついた。
「っ!」
兄さんが息を飲むのが分かった。
それでも、兄さんから離れたくなかった。
「離せ......」
兄さんが呟く様に言った。
俺は益々兄さんの服を掴む力を強め、嫌だ、と兄さんの胸の中で言った。
離したくない、離れたくない。
兄さんが何処かに行ってしまいそうだから。
「どんなに変わっても、兄さんは、兄さん、だもん......!」
涙が溢れた。
不意に、頭に何か熱い物が落ちてきた。
それと同時にきつく、きつく抱きしめられた。
「......!すまない、ありがとう......!」
兄さんが俺を抱きしめてくれた。
泣いていた。泣いた姿なんか見たことない兄さんが、泣いていた。
俺も抱きしめ返した。
今日は、よく名前を呼ばれる。
嬉しい、でも、母さんと父さんがいなくなったのはやっぱり寂しいし、悲しい。
俺と兄さんは、ずっと泣いた。ずっと抱きしめ合った。
俺が泣き疲れて眠るまで、兄さんはそこにいてくれた。
薄れ行く意識の中、兄さんは消えた。