第1章 The day when the life changes
「わっ…」
なかなか来ない私をじれったく思ったのか、本能的なのか(恐らく後者だろう。)、夕は私の手を引っ張り体育館を進んでいく。
急なことで足がもつれながらも、夕が私のスピードを考えてくれているようで転ぶことはなかった。
(優しすぎるのよ、バカ…)
「力!話があるんだけど!」
縁下くんにそういえば、彼の眠そうな目がこちらを向いた。
「なんだよ、西谷……と愛川さん。」
少し驚いた表情の彼に、私は「お邪魔します」と苦笑を浮かべた。
「俺、2/14休むから!」
必要以上の大声と直球すぎる用件に注目が集まるのも無理はない。
しかも日にちが日にちなもので。
「ノヤっさん、もしかして愛川とデートか!」
ということになってしまう。
冗談か本気か田中の言葉の真意はわからない。
だが私たちの関係を知らない後輩達は本気にしたようだった。
「西谷さんに彼女が…!」
「あの人見たことあるけど誰だっけ?」
「バカなの、副会長デショ。」
「ツッキー、さすが!」
あーもう、田中のせいで収拾つかないじゃん。と心の中でため息を一つ。
したのもつかの間。
「そんなんじゃねぇ!」
いつもより低い夕の声が響き、思考が止まる。
それは他のみんなも同じなようで、さっきまでの騒がしさが嘘のように静まり返った。
一番驚いていたのは夕自身だった。自分でも理由がわかっていないらしい。
でも私は知っている。今ならわかる。
(美雪が好きだったからだよ。)
だからあんな声で怒った。
ねえ、そうなんでしょ?
今でも美雪を好きなんでしょ?
そう思い至って、唇を噛み締める。
真冬の寒い体育館で、私の心だけは真夏の太陽に焦がされるような熱と痛みを帯びていた。