第1章 The day when the life changes
「あ、ママだっ!」
その声からあっという間だった。
美雪ちゃんの母親に何回もお礼を言われ、美雪ちゃんは注意されていた。
別れの時、美雪ちゃんは私達の方へやってきた。
「おねーちゃんたちには、わたしの好きな言葉を教えてあげるねっ!」
内緒話をするように美雪ちゃんが手の前でメガホンを作ったので、私達は耳を近づける。
「…ーーーー……ーーーー、……ーーー…ーーーーー!」
そのたどたどしく紡がれたことに私達は目を丸くする。
あまりの驚きに声も出せず、ただ顔を見合わせた。
『人は、誰かから深く愛されることで力を得て、誰かを深く愛することで勇気を得る』
かの有名な老子の言葉。
その言葉を美雪は人生の宝物だと言っていた。
まさかここで、その言葉を聞くなんて。
思わず目頭が熱くなる私を澄んだ目で見つめる少女。
ああ。
ああ、そうなんだね。
本当に…
本当に戻ってきたんだね。
……お帰り。美雪。
「またね!」と大きく手を振る彼女に、私達も大きく振り返す。
「またね、美雪!」
「今度はもっと遊ぼうなっ!」
「戻ろうぜ、美雪のところに。」
「うん…」
私を引っ張る夕の手は暖かかった。それは太陽のように。その温もりは私達が考えることが同じだと伝えてくれた。心地よかった。
ああ、我慢してたのに。
また泣いちゃいそうだよ。