第1章 The day when the life changes
「声、聞こえないか?」
そんなことを考えていると、夕が突然そう言った。
本当に唐突だったので、私は咄嗟に反応できなかった。
いきなり何を言うのだろう。
彼には美雪の声でも聞こえてるのか?
「美雪はなんて言ってるの?」
希望と冗談を交ぜてそう尋ねて彼を振り返ると、彼はどこか遠くを見ていた。
「違う……あっちだっ!」
「え、ちょっと、」
何かを見つけたように、私を取り残して走り出す。
なによ、いきなり。
私のことも美雪のことも無視して。
やり場のない怒りをぶつけようと、私も彼を追った。
「どう…したの……」
息を整える。
バレーで鍛えてる夕はなんともないかもしれないが、これはキツい。
雪という障害物はもちろん、墓場なんて階段だらけ。尚且つ転んだら不幸になるなんていう迷信もあるのだから、身体はもちろん、精神も使った。
「こいつ、迷子なんだって。」
追いついたときには、夕は小さな女の子と手を繋いでいた。
「泣かないなんて、偉いね。」
状況を察した私は少女に視線を合わせるため屈むと、少女はちょっぴり恥ずかしそうに笑った。
(迷子だっていうのに泣くどころか、笑うなんて……)
脳裏には別の笑顔が浮かぶ。
その2人の笑顔を重ねてみる。
美雪も辛いとき、よく笑ってたっけ。
みんなで悪戯して怒られた時も。
病気だってわかった時も。
入院して辛い治療をしなきゃいけない時も。
いつも、いつも。笑ってたよね。
どこを思い出しても貴女は笑ってる。
今もどこかで笑ってるのかな。
私は今、泣いちゃいそうだよ。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
ああ、ダメだな私…
小さな子にも心配されて。
あの時から成長しているのだろうか。
まだ美雪の前で、あの思い出の中と同じように笑えない私が。