第3章 帝王
【 及川 side 】
ただジャンプをしただけなのに、ここにいる全員が息を飲んだ。
「ま、こんな感じで、上げてよ。トス。」
当の本人は全く気にした様子もなくリスタートの位置まで戻っていく。
これは凄いなんてもんじゃないかもしれない、
皆そんなこと考えちゃってるよね。きっと。
だって、俺も震えてるもん。
「………じゃ、頼むわ。」
静寂の中、響く悠の声。
緊張で汗ばむ自分の掌を一度だけ、握り、開く。
フゥー……………
細く長く息を吐き、悠の顔を見ると、その目はしっかりと俺を捉え、頷いた。
手元のボールをシュルリと回す。
「…………行くよ。」
____トンっ
と、あげたトスは上へ上へと上がり、ネットの高さを越えていく。
ギュアッ_____
_______ズダンッ…!
「____うあっ!」
左手を挙げ、最高到達点に達したと思っていた体は、その手が降り下ろされる姿さえ見えぬ内に、下降していた。
キュ。
降り立った悠は、無表情のまま、見つめる先の手首を回していた。
渡を見ると、唖然とした顔で後ろの二人に押さえられ____否、後ろの二人とともに尻餅をついていた。
…………何が、起こった…………?
踏み切るまでは、目で追っていた。
しかしその後見失って、気がつくと最高到達点まで跳ね上がっていて。
スパイクを打つために挙げていた左手は、いつ降り下ろされたのかもわからなかった。
ただ、音だけが耳に残っていて、きっと、それは実在したんだってわかったけど。
ねぇ、何したの?……………悠
わかんないよ。
ちゃんと、俺を見て、教えてよ。
悠…………俺の声、届いてる?
「…………徹。」
呆然としていた俺に悠が声をかけた。
「すげーアホ面www ブッアハハハハッ!」
___It does not stop even in the eyes.