第13章 【影】
シェリルside
* * * *
「影、かげ…」
私が力のない声で呼ぶと、影はすぐに来てくれた。
記憶を失った私を、何度も勇気づけてくれた手で、優しく頭を撫でる。
意思を持った、私の影。
《シェリル。泣かないで、…シェリル…》
シエルそっくりの声で、アルストそっくりの優しい手。
私が求めていたモノ、それを影は全て持っているのに…。
なのに、強欲なまでに、私は『あの人』を欲しがっている。
一番に…。
「影、私…っ、ジャーファルさんに会いたいの、どうしても会いたい…っ!!」
《………》
「どうせ…、いつか、捕まって殺されてしまうなら、私っ、彼に殺して欲しい…他の人は嫌っ」
《…仰せの…まま、に…》
そう言い、私の目の前で影は、ビュッと一箇所に集まる。
アルストの鋭い目を持った、背の高いシエルの姿をした青年の姿で現れた。
私の喉に、ツゥ――――…と、人差し指を当て、私を見下ろす。
《僕は、影だ。君が死んだら、僕も消えてしまう。だから、君が愛しい人に殺された後、…その、まだ純粋な魂を頂戴》
「…いいよ。私をあの人の所に連れてって…」
彼に抱きしめられると、私の体は底へ落ちていった。
最後の微睡みだった。