第12章 【淡い夢】
「あ゛…あぁ゛っ」
「死ね、反逆者の王女など…」
ぐぐ…っ
「い゛ぁ…っ!!」
尚もシエルは、深く奥へ突き刺そうとする。
だらだらと流れていく赤が、地面に血だまりを作っていた。
グッと、剣を片手で押さえて、もう一方の手で指を鳴らし、影で剣を切断する。
まだ刃が突き刺さっている私は、その場にしゃがみこんだ。
(痛い…っ! 立てないかも…)
頭に響く、激しい痛みを堪えながら、私は声をあげて刃を右腹から抜く。
バッと振り返ると、シエルが冷たい目で見下ろしていた。
呼吸をするたびに痛む傷。
手で押さえても止まらない出血。
「シェリル…」
「はぁ、はぁ…、あ゛がっ!!」
「駒にならない人間など、要らないんだよ」
私を地面に押し倒し、馬乗りになって首を締め上げられる。
容赦なんて、躊躇なんて、決して…ない。
指輪から黒い煙が出て、私の体から魔力を奪っていく。
狂ったように笑い続けている口元。
なのに、なのに…。
(なんで…っ、泣いてるの?)
「はっ、がぁ…あ゛、ぐ…っ!!」
「死んでしまえ」
『ずっと俺たちは一緒だよ、シェリル』
嘘だ、こんなの嘘だ。
なんでシエルが、堕転なんて、闇の金属器なんて…。
ずっと一緒だって約束だってした。
指輪だって…、幼い頃に私があげた物…。
『シェリル…』
「――――――ッ、うわぁああっ!!」
わずかなルフをすべて使い、影を操り、彼の心臓を突き刺した。
顔に降り注ぐ、シエルの血飛沫。
彼の瞳孔は大きく開き、首を締めていた手が緩む。
フッと瞳をとじ、私に折り重なるように倒れた。
「あぁ…、あ、ぁ…シエルっ!!」
「………」
地面に横になったまま、返事をしない彼を抱きしめた。
痺れて感覚のない手で、私は彼の頬に触れて体温を確かめる。
…分かっていた、冷たいことなんて。
でも、彼から溢れる赤が温かくて、まだ、事実を受け入れられない。
笑っているような…安らかな表情は、ただ、眠っているだけなんじゃないかと思わせる。
「…ぁ……シエル…」
《俺なら此処だよ》
空を見上げると、下半身が消えた彼が立っていた。